キリンの常同行動 ~舌で舐める~

キリン大好き!

動物園でキリンを観察していると、舌でベロベロと食べ物でないものを舐めている姿をよく見ます。これは常同行動と呼ばれ、英語では”oral stereotypy”と言われています。

キリンの口の常同行動の動画

宮崎市フェニックス自然動物園でのマサイキリンの親子ですが、3頭が3頭ともで、ときどきこの口の常同行動が観察されます。高い樹は舐め舐めする高さが決まっていることもあり、少し色が変色しています。子供キリンのコナツは、低い鉄柵を舐めているときが多いです。

マサイキリンのコユメです。

大分県のアフリカンサファリのアミメキリンでも同様に口の常同運動が観察されました。岩を舐めています。この動画だけをみると、岩に含まれている微量元素を得るために舐めているようにも見えます。

常同行動とは ~ヒトの場合~

ヒトにおいても常同行動は観察されます。反復的・儀式的な行動、姿勢、発声を示します。自閉症・障害児の行動の中に、身体をリズミカルに前後左右に揺すったり、手を目の前でひらひらと動かしたりする、同じパターンを繰り返す行動です。ハンチントン病におけるパターン化された不随意運動や、チックのような運動も、常同運動と定義されます。キリンの口の常同運動は、見た目は「チック」に一番近い印象です。

原因は、強迫症、癖のような心因性のもの、ドパミンなどの神経内分泌系の異常による大脳基底核疾患など複数あるようです(大脳基底核回路とは、四肢の運動をスムーズにするために補助調整機能を有する回路の一つです)。大脳基底核回路の障害により、運動減少または運動過多が生じます。運動過多の一つの症状が「常同運動」になります。

キリンの常同行動の原因は

キリンの舌の動きは「常同行動」という定義には当てはまりますが、原因は良く分かっていないようです。野生のキリンには観察されず、動物園で飼育されているキリンの約80%に観察されることより、採食に対する労力がかからなすぎる(簡単に食料にありつける)ことが原因に一つと推測されていました。餌の補給方法を野生に近づけると口の常同行動が減ると理解されています。

しかしながら、京都市動物園からの報告では、餌の補給方法を通年で同じ樹木給餌で実施したところ、樹木摂食量は季節間で有意な変化はありませんでした。一方、全ての個体(3頭)で口の常同行動が観察され、有意に冬に増加する結果となりました。考察として、本来の生息地との気候的なギャップが一つの要因と推測されました [Okabe, 2019]。

原因は、一つではないと予測しました。ヒトの不随意運動でも、機能性(心因性)な要素と器質的(脳自体の障害)な要素の混在する場合が多いです。心因性の原因も一つとは限りません。動物園のキリンとオカピ―の常同行動と環境を解析した研究では、亜種、産まれた場所、飼育柵内の滞在時間・広さ、給餌方法などが、常同運動の頻度と関係したと報告しています [Bashaw, 2001]。結局は複数のストレスなのかもしれません。

宮崎市フェニックス自然動物園、アフリカンサファリ、京都市動物園でも、全てのキリンに観察される点が特に重要なポイントと考えました。ヒトにおいては、癖は、他人に移ったりすることも時にはあります(欠伸が周囲に伝播するように)。しかしながら、全員に伝播ということはなさそうです。何かの病気ならば、常同行動が観察されない個体もありそうです。そんな意味では、キリンの常同運動の原因は、いわゆる大脳基底核回路の疾患ではなさそうです。

私が勝手に想像したところでは、① ストレスによる心因性反応、② 舌で舐めていないと舌の表面に何か不都合なことが生じる、③ 舌の運動により全く想像もつかない何かを活性化させている(寒い気候に適応するため?)、などがありそうです。これらのどれでもないのかもしれませんが、ヒトの行動が不可解なように、キリンの行動も単純ではないと予測しています!

文献

Okabe K, et al. Does oral stereotypy in captive giraffes decrease by feeding them evergreens and barks in winter? Animal Behaviour and Management 2019;55, 165-173
Bashaw MJ, et al. A survey assessment of variables related to stereotypy in captive giraffe and okapi. Applied Animal Behaviour Science 2001; 73,235-247

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