動物園には、学術的な役割があると同時に、飼育している動物が健康的に過ごせるようにする役割もあります。野生の環境とは異なり、どうしても狭い空間での飼育となってしまいます。そのためにいろいろな障害がでてきます。
足の骨
動物園のキリンの歩行障害の原因について足の骨に注目した研究[Dadone, 2019]があります。
動物園(アメリカコロラド州のCheyenne Mountain Zoo)の22頭のキリン(Giraffa camelopardalis reticulata)の前足のX線写真を分析しました。群れには、前蹄の異常増殖と断続的な跛行の病歴がありました。
レントゲン所見では、遠位指節間関節の関節炎、遠位指節骨の骨炎、骨折、回転、および種子骨嚢胞が含まれていました。遠位指節間関節の関節炎は、群れの73%(16/22キリン)において前足で発生し、全てのキリンは7歳までに関節炎の所見を示しました。
動物園のキリンの平均寿命が25歳程度とすると非常に若い個体が例外なく関節炎を呈するというのはかなりの高頻度と感じます。野生キリンのデータがないので、推測しかできませんが、狭い動物園での運動不足が引き金のように感じます。一方で高い身長により足にかかる負担が大きいことも関与しているのかもしれません。
顎の骨
別の方向からの研究です。
ヨーロッパのキリンを飼育している216動物園(86動物園から返答があり)にて、キリンの下顎骨折についての調査した研究があります [Remport, 2022]。
14件の下顎骨折の報告が上がりました。7件は人工的な給餌装置と関連していました。14例のうち7例は外科的に治療され、2例は医学的な管理をされ、1例は重症のために安楽死、1例は死後における下顎骨骨折と判断されました。1例は麻酔後の合併症で死亡しましたが、他は全て回復しました。
巨大なキリンに麻酔をする風景、清潔操作の中で手術をすることを想像すると動物園関係者のご苦労には頭が下がります。これらの顎骨折は、年齢は5Wから8Y(平均 3.4Y)で若いキリンに生じたそうです。給餌装置との関連が多いことを考慮すると、慌てて餌を食べようとして怪我をしたということなのでしょう。野生の環境では、人工物の給餌装置はありませんので、トライandエラーがあったのかもしれません。
考察
骨密度の研究があれば、わかりやすいのですが、検索した限りでは見当たりませんでした。
ヒトにおいては運動すると骨密度があがりますので、動物園の骨密度は低くなっていると推測されます。ホルモン作用を介して骨密度が上がることから推測すると、動物園キリンは、顎に関しても骨密度が低くなっている可能性があります。
文献
Dadone et al. Clinical conditions found radiographically in the front feet of reticulated giraffe (Giraffa Camelopardalis Reticulata) in a single zoo. J Zoo Wildl Med 2019, 50, 528-538
Remport et al. Mandibular fractures in giraffees (Giraffe Camelopardalis) in european zoos. J Zoo Wildl Med 2022, 53, 448-454